「あいつはすっげえ世界が狭いんだ。自分の周りだけが全てだと思ってる。」
「はあ。」
そうですか、とクラウドは頷く。親友の愚痴を半分聞き流している。
彼が愚痴ることと言えば英雄の話ばかりなのだ。憧れている英雄の悪口など聞きたくないのが本音だが、ザックスは俺以外の人間にあまりそういうことを話したりしないようなので(自惚れじゃなく。たぶん。)、スルーするわけにも行かず、彼が険しい顔をして寮の自分の部屋を訪れたときはなるべく穏やかに迎えるように努力をしている。
「あいつ、『そんなに鍋を焦がすのは世の中でお前ぐらいだ」って言うんだぜ。俺は男だぞ。飯作ってやって服破けりゃ繕って洗濯物だってしてやって掃除までしてるんだ、そんな俺に世界で一番鍋の扱いが下手だっていうんだ。」
ザックスは大袈裟に手を振って苛立たしさをアピールして、ここぞとばかりに溜息をついてみせる。
「そんなもん鍋焦がしてる人間なんて今同じ時間に何千人もいるってーのな!大体焦がしたくなきゃ電気コンロに変えりゃいいのに、それは火力が弱くて玉子焼きが美味くないとか駄々を捏ねるんだよ!自分で飯作れこの馬鹿野郎!って、もうさ、ほんとわけわかんなくねえ?外じゃ仕事頑張ってるかもしんねえけど、そんなの俺だって同じなのにいちいち突っかかってきてさ。マジで殺意湧くから。」
「ザックスの気持ちは俺にはよくわからないけど、そんなに怒ることもないんじゃないか?」
クラウドの言葉にザックスは拗ねるようにむっすりと口角を下げる。
「クラウドは世話される側だから仕方ないけどさ、いつか恋人ができたら同棲してみな?そしたら俺の気持ち絶対わかるから。つーか、俺だって仲良くできるならずっと仲良くしてたいんだよ…鍋焦がしたからって、そんなつまらないことで喧嘩して、それも大喧嘩だぜ?夜の10時に。次の日一緒に休みが取れたからいっぱい一緒にいようなって言ってたのに。わけわかんないよ。けどあの人さあ、ほんっと家じゃ何もしないんだよ。いつも俺ばっかりでさ…ひどいよ。」
親友がだんだんと萎れていく様子を見てクラウドも眉根を寄せて問い返す。
「そうなのか?」
「うん。特に最近はひどいんだ、…たまには甘えてえじゃん?べたべたするのは嫌いだっつってテレビ見ててもくっついてくれないし。昨日なんて俺に背中向けて寝るんだぜ?無理やり突っ込んでやろうかって思ったっつーの。そんなことしたら口きいてくれなくなるからしなかったけどさあ。」
「ああ、そうなの。口きいてくれなくなるんだ。」
「全然。ひどかったら1週間はだんまり。前は、俺寂しくて…その、泣いちまって、そしたら…まあ、謝ってくれたし頭撫でてくれたけど。」
色んな感情が混ざって複雑そうな表情でザックスが口をもごもごさせる。
そんな彼の背を擦り、クラウドは
「仲直りできるならいいじゃない。」
愛想良く笑いかけてやる。
「そりゃあさ。でも喧嘩はしないに越したことないじゃん。面白くないし…離れちまうの嫌だし。」
「ザックスはセフィロスさんのこと、ほんとに好きだな。」
親友は不意を付かれて驚いたように目を白黒させていたが、すぐに睫を伏せてニヤケる唇をきゅっと引き締めた。
「…うん、うん。すげえ好き。」
俯きじっと自分の足元を見つめたままはにかんで頷くザックスを見て、クラウドはうんうんと相槌を打つ。
クラウドはザックスが好きだ。大好きだ。尊敬もしているし信頼もしている。
でも、3日毎にやってきて痴話喧嘩の報告はいい加減にしてほしい。
正直マジでうぜえ。
俺の素晴らしき英雄とソルジャーの理想像を返してくれと、自分は一体誰に叫べばいいのか。
いつか近い将来、もしも彼女が出来たならば、そのとき俺は絶対に惚気たりしない。とクラウドは固く誓うのだった。