「こりゃ珍しい。」
ザックスはセフィロスから渡された封筒を目の前でひらひらと揺らす。
手中にあるそれは軍事部門に属する人間なら誰もが一度は書いたことがあるであろう代物である。
「先月な。」
セフィロスは封筒にもザックスにも目を向けることなくパソコンと向き合っていた。
「無縁そうなのに。」
「もう不要になった。シュレッダーにでもかけておいてくれ。」
「アイ、サー。」
答えたものの、ザックスは物珍しそうに表裏ひっくり返した。その上室内灯に翳して透かそうとしている。
それを横目に見たセフィロスは顔を顰めた。
「見るなよ。」
「わ、わーってるって。」
慌てたようにザックスは封筒をくしゃりと握りつぶして背後に隠した。
セフィロスはじぃっと副官である相手を見つめる。だが、すぐに目を逸らし
「安心しろ、お前宛てには一生書かん。」
と、ぴしゃり。
「ちょっと期待したのに。」
取付嶋もないセフィロスの言葉にケタケタと笑って、ザックスは握っていた封筒をシュレッダーに押し付けた。
紙を噛み砕いていく音がやたらに五月蝿い。
やがて咀嚼し終えて機械の起動音だけになると電源をオフにし、ザックスが振り返る。
「冗談だよ。いらない、旦那の遺書なんて。頼まれたって受け取りませーん。」
そのままセフィロスの隣の椅子に腰を掛けた。
パソコンから視線を外し、セフィロスは一連の彼の行動を訝しげに眺める。
それを気にした様子も無くザックスはおどけた風に笑ってみせた。
「くたばるときは付き合うよ。一緒に地獄へ洒落込みましょうや、旦那。」
チッチッチッと指を動かしている。

―――ばかたれ。

ほんの少し間を置いて、そう言い放ったセフィロスの、抑揚のない声と裏腹な優しい顔といったら。

059　……もう、書けないよ