ザックスとキスをした。
無理やりでもなければ好んでしたわけでもないが、一応合意の上で。
なんでも彼の初恋の相手というのが雑誌に載っていた10代の頃の俺だったらしい。
「一回で良いからキスさせて!」
そう頼まれても、実は俺もお前のことが…なんてミラクルはあるわけもなく、もちろん断った。
だがはりもぐらは食い下がった。
そりゃもう尋常じゃないほど食い下がった。
男が好きじゃない。
そういう趣味はない。
好きじゃない子とは出来ない。
彼女がいる。
最終的にはお前が嫌いとまで突き放した。
が、それでも彼は頼み込んできた。
聞けばもうすぐ死ぬんだという。
長くないんだという。
死ぬ前に初恋のアナタとキスをしていたいという。


あれから半年。
彼奴が死ぬ気配はない。全くない。
むしろ今朝は気持ち良さそうに隣で寝ている。

あれえ?

055 笑えないほど馬鹿馬鹿しい