いかにも愛想のない無骨なコンクリート固めの建物の中へザックスは足を踏み入れた。クラウドはもう居酒屋でスタンバイしているとのことだったから、ザックスの役目はすぐに約束を破るセフィロスを部屋から連れ出すことだった。初めての3人飲みだ。
そして案の定、自然と覚えた相手の部屋の暗証番号を押してセキュリティシステムを潜り抜けると、広いリビングで銀髪の彼は上下スウェットでソファに凭れてテレビを見ていた。
「飯。さっさと着替えろよ、もうクラウド待ってんだよ。」
「もう少し。」
「ダメ。はいっ、準備!急ぐ急ぐ!!」
端正な顔に皺が寄り、青い瞳がザックスを睨み上げている。迫力だけは満点なので内心おっかないのだが、そうも言ってられない。
普段から英雄だ英雄だと祀り上げられ、事実、相当な実力を持ってその座に君臨しているセフィロスは、なんというか…マグロだった。
言い方が悪いので言葉を変えると、非常に「受け身」なのだ。
自分からあれをしようこれをしようとは滅多に言い出さないし、しない。
かといって反抗的なのかといえばそうでもなく、頼まれた仕事は大体そつなくこなす。
時々ははっきり断ることもあるが、下から頼まれても上から頼まれても、一言「かまわない。」、これなのだ。
食事に誘ったときも、てっきり断るかと思いきや「別にかまわない。」と即答で頷いていた。
―――なんだかなあ。
彼は見た目と雰囲気で誤解を生むタイプだと思う。
ソルジャーの制服がいつもカッコイイから私服もおしゃれかと思いきや、黒のスウェット。
不満そうに自室に戻ったセフィロスはものの数分で渋いコートを羽織って出てきたが、中はジャージに違いない。
ザックスがセフィロスを観察していると、彼はAV機器の傍にあるガラスケースに手をかけていた。セフィロスの家へはかなりの頻度で遊びに来ているザックスだったが、何種類もの指輪が並べてあるそのガラスケースを彼が開けているのを見るのは初めてだったから、つい歩み寄る。
「あれ?指輪なんかつけてくの?」
「ああ。」
「これ、全部セフィロスの?」
鍵の開いたガラスケースを手の甲で叩く。
「ああ。」
「何でこんなにあんの?集めるのが趣味なのか?」
「そうじゃない。」
「うん。」
「これは…コルタ・デル・ソルへ行くときに。こっちはカーム。」
「ふうん、行く場所で決めてるんだ。」
頷きながら、ザックスは神妙な顔になった。
クロス模様で型抜いたもの、三連になったもの、宝石がついているもの…明らかに女性が好む類のものだった。
つまり、これらの指輪はペアリングの片割れなのだろう。
―――呆れた。こいつ、現地妻何人いんだよ。
ザックスの目が半眼になる。
溜息混じりに指輪の感想を一人呟く最中、セフィロスが手に取ったのは他のものとは少し雰囲気の違うシルバーリングだった。
「ん?」
ザックスは首を傾げる。
飲みにいくだけなのに、どうして指輪を身につけるのか?
当たり前のその疑問に気付いてしまったのだ。
セフィロスの指に嵌められた、十字架と蔦がモチーフのゴツめの指輪は、ザックスには確かに見覚えがある。
今頃居酒屋で待ちぼうけをしているであろう親友が、最近見に付け始めたネックレスについているチャームと同じデザインだった。
ザックスの顔が見る見るうちに紅潮する。
気だるげにガラスの箱に鍵をかけるセフィロスの鼓膜を突き破らんばかりの怒鳴り声が室内に響き渡った。
「馬っ鹿野郎!!別れろ!!クラウドと別れろ!!!!今すぐ別れろ!!!!」
目の前の彼に男色趣味があろうがなかろうが、親友が誰と関係を持とうが持つまいが、そんなことはどうでもよかった。
ザックスが怒髪天を衝いた理由はただ一つ。
「よりによってアイツをその他大勢ん中にいれるとかありえない!!!」