それは唐突な話だった。
キスの仕方がわからない。
そんなこと言われてもとツォンは困惑するほかない。
仕事上の書類について説明しに来たつもりがとんだことになってしまったと彼は思った。
セフィロスに恋人が出来たらしいというのは聞いていた。
何せふわふわしている。ものっそいふわっふわしている。
ミッションで向かった土地の最寄の町で土産屋に寄りたいと言い出したときには瞠目したものだ。
「人から教わるものではないだろう。」
ツォンは渋り気味に答えた。
「フィーリングか。」
「フィーリングだな。」
セフィロスはふぅと溜息をついてみせる。
がっかりしてしまいました。残念です。
そう語っているかのような吐息だった。
そしてそこからのツォンは速かった。
「これが、こうきて、こうして、こうきたら、こうして、こう!」
空気を相手に3秒という俊敏さでジェスチャーしてみせたタークスに英雄はおおおと身を乗り出す。
ちょっぴり恥ずかしかったのかツォンはセフィロスと目を合せようとはしない。
そんなことはお構いなしにセフィロスは生真面目な顔で空気で出来た練習相手の肩を掴む。
「ここを、こうして、こうきたら、こうして、こうして、こう。こうだな?」
コツを掴んだと言わんがばかりに興奮する英雄。
しかし。
ちらっ。と薄目でその様子を見ていたツォンが首を横に振る。
「それではいけない。ここでそうきたら、こうして、ここを。こうやって、こう。」
「それは変だろう。不自然だ、そこでそうきたのなら、そこは、こうして、こうすべきじゃないか。」
いつの間にかセフィロスは椅子から立ち上がっていた。
ツォンも根が真面目だからか、真剣に答える。
「お前はしたことがないからだ。こうきたら、こうなるんだ。こういう形になる。」
「いや、しかし、妙だ。そうきたら必ず歯がここにこう当たる。」
「その時はそ知らぬふりをして流す。流せ。」
「そんな恥ずかしいところを見せられない。」
「恋人同士ならそういうところをお互いに知ることも大切だ。」
「恋人は俺だぞ。確実に期待しているぞ。キスが下手だったらがっかりだろう!」
「キスが上手いとか下手だとか利き分けられるほど経験が豊富なほうががっかりじゃないのか!」
「お前はさっきから屁理屈ばっかりだ!!!」
「人に物を尋ねておいて駄々を捏ねてるのはお前だ!!!!」

041 道案内して迷子になりました