神羅カンパニーに入社した当初はそれまで街に広まっていたマスコミや週刊誌の英雄の噂を鼻で笑っていて、実物の彼はきっと人間味溢れた素晴らしい1stに違いないと幼いなりに抱いていた憧れはソルジャーになって初めて彼と対面したときに粉々に打ち砕かれてしまった。
怒らない・悲しまない・笑わない、それに加えて声に抑揚もない。まるでロボットじゃないか。こんな上司の元でやってけるのかな俺。頑張れ俺。そんな風に自分を慰めると共に、いいや!本当のセフィロスはきっと優しくていい奴なんだそうに違いないなんて彼への憧れを捨てきれないでいた。だからこそ本当に頑張った。事あるごとに銀髪の鉄仮面を笑わせようと色々やってみた。そりゃ偶々一緒に飯を食うことになったときに箸を鼻の穴と下唇の間に差し込んでみたり、真剣に彼の話を聞く振りをして瞼の上に目を書いてずっと寝る振りをしてみたり、捨て身でかわいく三つ編みをしてみたこともあった。しかし悉く連敗。口角の1ミリさえ上げやしない。もう、もうお手上げや。この人、ワイの手に負えへんでえ。
目の前の鉄仮面が自分が憧れ続けてきたセフィロスなんだと受け入れなければいけない。英雄を笑わせよう怒らせようと毎日忙しなかった俺は、生まれて初めて心の底からしょ気てしまっていたのだが、「ザックス、元気がないな。」と話しかけてきた万年無表情冷徹俺の冗談いつもスルーのはずの英雄様は微笑んでいた。開いた口が塞がらないまま彼の綺麗な笑顔を見つめていると「おまえがしょぼくれていては俺もつまらない。調子を戻せよ。」とさらには俺の肩を叩いていく。なんでなんでなんで何で笑ってんの俺何かしたかなちっくしょうなあんだやっぱ良い人じゃないかやっぱり鉄仮面なんて嘘だ本当のセフィロスはやさしい…と悦びの真っ只中にいた俺を補佐官の一言が現実に引き戻してしまった。

「飼い主としちゃしょ気てる犬の方がなんか堪らんもんだよな。」


母さん、僕らの英雄はただの嫌な人みたいです。

005 取り敢えず、僕を笑わせて