白い部屋には毎日色んな人がやってくる。そして星中を旅行しに去っていく。白い部屋はとても広いけどずっと歩いているとやがて壁にぶつかる。壁には10cmごとに白い扉が設置されていて、その一つ一つが星の色んなところに繋がっている。
そしてセフィロスが白い部屋にやってきた。
迎えに来たザックスは尻尾を振る勢いで喜び出迎えた。というか飛びついた。
「旦那ああああ」と叫びに叫んで3キロ前から全力ダッシュ。ありえない衝撃と共にガタイの良い男が胸に飛び込んできてセフィロスはそのままぐるんぐるんと後転を3回繰り返してばたんと倒れた。
「遅いよーーーー!!」
すりすりもふもふぎゅうぎゅう。とこれでもかというほど英雄は暑苦しい抱擁を受ける。懐かしい匂いに油断して派手に転んでしまい、おかげで頭を打った。視界が覚束ないと両目を細めているとハグと同じぐらいに熱烈なキスをされた。ちょっと長い。長いって。ブランクあるんだからいきなり舌はやめんさいいい!!と引っぺがす。
ザックスはほっぺの血色も良く、それはそれは嬉しそうにセフィロスの上に乗っかっていた。
「俺さ、半年ぐらい前に来たわけ。あんとき旦那死んじゃったと思ってたから、真っ先にアンタにごめんねって言って仲直りするつもりだったのに、アンタいないんだもの。待ちくたびれたよ。ああ、星もそんなにひどくないし、俺も世界中の皆さんに一緒に頭下げなくても良さそうだし。ああセフィロスよかった。ちゃんとここに来れて。」
矢継ぎ早に喋りながら、合間合間に贈られるキスをちゃんと受けながら、セフィロスはよくよく記憶を整理する。そういえば神羅屋敷で色々読んでて頭カーッとなって放火して3年付き合って丁度倦怠期だった恋人も切り捨てて、別れ話代わりに「俺の知ってるセフィロスじゃない」とか何とか言われて…ザックスではないな、…誰だったか…思い出せないが誰かに思いっきり剣でぶっさされて…そのあとなんだったっけ。
どうでもいーじゃないっすかあ。とザックスはセフィロスに纏わり付くが、それでも男は納得しない。ううん。と唸っている。
ザックスがそうやってセフィロスにべったりくっついて幸せを噛み締めたのもほんのちょっぴりの時間だけ。
セフィロスは休む間もなく恨み辛み全てを思い出して再びプッツン。あのガキぶっ潰す!と高らかに宣言して。あっという間に現世へ逆戻り。哀れ、ザックスは白い部屋でまた独りぼっち。
セフィロスは中々戻ってこない。戻ってきたとてぼこぼこにされて返り討ちの末だからすこぶる機嫌が悪い。この前なんて希望あふれる夢の国へわざわざ旅立って神様に混じってオリンピックに出たかと思いきや、今度は変な仲間たちとチームを組んで異世界へ喧嘩をしにいくと豪語している。
「なあ、そういうのやめて俺と一緒にいようよ。」
いくらそう願っても。
「早く帰って来てー…。」
こてん、と横になって目を瞑ってみても。
呟きは空しく白い部屋に消えてしまうのだ。
命を枯らせた戦友や名前も知らない人が現れてはこの部屋を出て行く。
「一緒に行こうよ。」
そう声を掛けてくれる優しい老人がいても、ザックスは首を横に振る。
「今度は離れないって決めたんだ。」
「そうかい。」
「うん。」
「早く戻るといいね、その人。」
「うん。」
ザックスはセフィロスが帰って来るのをずっと待っている。白い部屋で独りいつまでもずっと待っている。