携帯の電源は入れておけと怒鳴られた。
どうしてきたんだと言い返した。
お前はわかりやすいんだ。そう言って笑われた。


「久しぶり。」
「………。」
「あのさあ、元気にしてんの?もう半年仕事でも顔合わせてない。」
「…もうそんなに経つか。」
「うん。喋ったのは、もっと久しぶり。」
「そうか。」
「そうだよ。」
「………。」
「………。」
「何か用か?」

仲直りしたいなあ。
そう思って通話ボタンを押したつもりだった。
喧嘩をして1週間、泥沼に嵌って1ヶ月、勢いで別れて1年間。
なんて意地っ張りだったのだろうか。別れた1年間は後悔ずるずるの未練たらたらで。
ちっとも変わらない声を聴いたら、何かが込み上げてきて、目頭がぐぐっと熱くなってきてしまった。

「や、何でもない。迎えが来ないから、暇で暇でさ!」
「…そうか。」
「そう、なんとなくだから。」
「…そうか。」
「うん、…それじゃ、それじゃ、な。」
「…ああ。」
「……セフィロス。」
「なんだ?」
あ、泣く。泣きそう、俺。
顔が歪むのがわかった。もう視界がぼやけて1m下の地面が見えない。
「俺さあ、なんか、…」
「うん。」
「なんか、……」
「………。」
「………。」
そこで泣いてしまった。
だから言葉が返ってくる前に通話を切った。

なんて情けないんだろう。
今更仲直りもくそもあるわきゃねえ。
俺のことを好きだといってくれた女の子たち。
付き合えないよ。さらりとそんな返事をしても、ニコニコ笑って甘やかしてくれる女の子たち。
君たちはなんてタフなんだい。
無理だよ。生き地獄だよ。針のむしろだよ。
俺はこれ以上おっちゃんの声聴いてらんないよ。

「ザックス。」
名前を呼ばれて初めてツォンが目の前に立っていたことに気付いた。
はらはらと涙が止まらない俺を、見ないように見ないように、そうして顔を背けたままハンカチを差し出している。
この人のこういうベッタベタな優しい所作が人を惹きつけているんだなと思った。
無言でそれを受け取り瞼の上から目を押さえる。
「一般兵と2ndは撤退完了した、残るのはお前だけだ。行くぞ。」
鼻を啜る。
帰りたくないとダダをこねるのも申し訳がないと思ったのだけれど。
「ツォン。」
「なんだ?」
「歩いて帰ってもいい?」
ポーカーフェイスな男の眉間に皺が寄る。
「どういう意味だろうか?」
「あんま疲れてないから、鍛錬も兼ねてモンスターぶった斬りながら帰りたい。」
「本気か?」
「うん。」
「何日。」
「3日ありゃいい。」
ツォンは困った顔をして俺を見た。
当たり前だ、なにせここはミッドガルからヘリで飛ばして3時間もかかる遠い山奥なのだ。
つられて困った顔を浮かべていたらしい。
彼の手が伸びてきた。
苦笑しながらわしわしと頭を掻き乱される。
「7日間空けておこう。それまでに戻ればいい、上には報告しておく。」
「いいの?」
「かまわないさ。」
「ツォン。」
「なんだ?」
「俺アンタのこと好きかも。」
ツォンは眉尻を下げて少しだけ笑うと、何も言わずに踵を返してヘリの待機する場所まで戻って行った。
暫くすると遠くからヘリのエンジン音が聞こえ、豆粒が上空を通り過ぎた。
誰もいなくなる。
持ちっぱなしだった携帯電話へ視線を落とすと、今度は無駄にしゃくりあげて泣いた。
喧嘩したときも別れた後も一度も泣かなかったのに、人の心は不思議だ。
感情に流される自分と冷静にそれを分析する自分とが同居している。
そんな自分もまた不思議だなあと無限ループ。
そうしてその場にへたり込んだ。
昔の写メのフォルダや保存しているメールを携帯の電源が切れるまで見耽っていたら、ぼとぼと涙を零れて顔がぐしゃぐしゃになった。
うすらぼんやりと明るい空を見上げる。
気が付いたらもう朝だ。
徹夜で泣くってどんだけっすかザックスさん。

目の下が隈だらけなんだろうなあと、グローブを外して顔をペタペタ触る。
「………」
不意に遠くでエンジンの音が聞こえてきた。
ヘリじゃない。
車?バイク?
その音が近づくに連れて聞き覚えがあるものだと気付く。
胸がざわつきだしてどうしようどうしようと視界がぐるぐる回る。

あああ。