この話はコチラの続編になります。

2月14日。明日バレンタインじゃないか。と気付いてしまってからザックスは寝付けなかった。
故郷のゴンガガでは女の子が好きな人にチョコレートを贈るのが風習で、母親と知人がくれる手作りチョコレートと都会に住んでいる伯母さんが送ってくれる洒落たチョコレートが毎年の楽しみだった。
しかし、ミッドガルではどうも違った。
男性が普段お世話になっている女性だったり、男女関係なく各々大切な人に贈り物をするのというのだ。
な ん と い う フ ラ グ 。

一週間ほど前のカンセルのメールを思い出す。もうすぐアプローチがあるって。アプローチがあるって。近づかれるって。俺のこと好きだとか言い出すって。告白されるって。告られるって!!!!!

ザックスは好きという言葉で自身に暗示をかけてしまったようで、ここ数日はすっかりセフィロスを見つけては目で追うのに必死だった。とまあ、英雄に愛の告白を受けるという過大妄想に囚われたおかげで睡眠不足。加えて今朝からばっちり8時間労働+αでザックスはふらっふらだった…のだが。聖・バレンタイン。物の見事に一日何もなかった。今か今かとドキドキしながら時間は過ぎてあっという間に午後7時前。退社手続きも終えて後は帰るだけ。
トレーニングルームの前を歩いているところで、ザックスは肩を落とした。
「そんな上手い話があるわけないんだよなあ。」
自嘲気味の心の声がうっかり音として口から出てしまった。
「ザックス・フェア、だったな」
いけない。寝ていないせいかセフィロスの声が聞こえてきた。ザックスは目を擦り、帰って寝なくちゃと額を叩く。
「すまないが、今から少しだけでいいんだが、時間をもらえないだろうか?」
あはは。いやいや、セフィロスなら喜んで…って、俺よっぽど疲れてるや。
「……迷惑か?」
「!?」
さほど広くない廊下。ザックスが振り返ると自分の丁度真後ろに立っていた。セフィロスが、だ。
ジェネシスは傍に居なかった。
「えっ、は…オ、オレ??」
声が上擦った。あまりに急すぎて頭が追いついてこない。セフィロスが無言で頷く。わかりやすく顔に笑みが広がっていくのが自分でもわかった。目の下に隈を作った自分の笑顔はさぞ滑稽だろうと思った。驚きと期待でそれ以上上手く言葉がでなくて、彼に負けじと何度も大袈裟に首を振って頷いた。セフィロスが微笑んだ。胸がどきどきする。
「ありがとう。すぐ済む、トレーニングルームに付き合ってくれ。」
付き合ってくれ。そこだけ取り出してニヤけてきた。末期だ。
カンセルお前の言った通りだこれ絶対来たもう絶対間違いない今夜は祝杯ビールだガンペェェェエエエエイ。
心の中でガッツポーズをかましながら、先に歩き出すセフィロスの後を追う。
セフィロスは背が高い。ザックスも随分伸びたとおもったが、それでも20cm以上余って差がありそうだった。
さらさらとなびく銀髪が綺麗だ。
ザックスはもう恋する男スイッチが入ってしまっていた。
自動ドアを潜り抜け、トレーニングルームへ入る。
セフィロスは入り口のすぐそばにあった操作パネルの元へ歩み寄り、片手でボタンを押し始めた。
どうやらバーチャルリアリティの設定を弄っているらしい。
入室してしばらくパネルと睨み合い続けるセフィロスに痺れを切らして後ろから覗き込むと、彼が横目にザックスを見遣って笑った。
どきっ。
「急くな、ほら…出来た。」
そう言いながらセフィロスが細長い指を機械から離す。
瞬間に前後左右一面に新しい世界が開けた。
ファンシーな花畑が。ワッハイ。

「やあ、ベストタイミングだな。」
ヴァーチャル空間に人影が増える。背後から現れたのはジェネシスだった。見ればアンジールもいる。
事情が飲み込めないザックスの視線は隣にいるセフィロスと後ろの二人との間を行ったり来たり。
あれ?セフィロスさん愛の告白は?
そんなささやかな疑問を籠めたザックスの眼差しに、セフィロスは柔らかく微笑んで返す。なんだかとても嬉しそうではあったが、わけがわからない。花畑?セフィロス?ジェネシス?アンジール?トレーニングルーム?バレンタイン??頭がパンクしかけているザックスの脇をセフィロスは颯爽とすり抜けた。
「あれ…?」
釣られて振り返る。
アンジールの肩に各々両手を添えるセフィロスとジェネシスがそこにいた。
二人ともザックスを見遣ってはニヤけた面でもう一人の1stに耳打ちをしている。
「あ、あれ…?」
疑問符だらけで収拾のつかない思考を落ち着かせようとしているザックスの視界は、確かに捉えた。
ニヤけ面のままバーチャル空間から姿を消すセフィロスとジェネシスを。
ソルジャーの中では特に慕われているらしい黒髪の1stが手に持つものを。
なんかそこはかとなくプレゼント臭が漂っちゃっているそれを。
そして、ヤケに熱い彼の眼差しを。


ノォォォオオオオオオウウウウゥ!!