自分を取り戻しセフィロスと最後の戦いに望んだクラウドは、変わり果てた彼を見て、彼の言葉・声を聴いて、ふと昔のことが頭を過ぎるのを感じた。



もおぉぉだめだあ。
クラウドはどんどん減ってゆくお金と鉄球を交互に見て項垂れた。
給料日とイベントが重なっていたらもしかして良いこともあるかもしれないとお札を掴んだのが運の尽き。もう一枚もう一枚と取り付かれるように財布からギルを取り出し続け、気が付けば無一文になっていた。ドル箱はからっからで寂しいったらありゃしない。
今月の食費はどうしよう。仕送りも出来ない。困った。…困った。自業自得だ。
そんなクラウドの瞳が曇り空から発色の良い空色に一転したのは残った3つの玉を流し込んだ直後だ。
「○○○番台のお客様、おめでとうございます!」
デジタルが派手な演出に変わり、効果音以外うんとすんとも言わなかった台が音楽を奏でだした。今まで5時間、一度も揃ってくれなかった数字が揃い出す。急な展開についていけず台の前で目を丸くしていると最後の数字も揃い大当たりの文字が浮び、ホール内には2回繰り返してアナウンスが流れた。奇数演出使徒殲滅。
「え、うそ…!」
思いもよらない大当たりに笑みが広がるもつかの間で、続けようにもお金も玉もないことに気がついた。床に玉が落
ちてはいるけれど、拾うのはちっぽけなプライドが許さなかった。俯く。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。

これからだというのに玉が流れてこなくて遊技台は困ったように沈黙している。

どうしよう、どうしよう、どうしよう。

じゃら、じゃら、じゃら、じゃら、じゃら。
どうしよう。と唇が言葉を模っていると、青い瞳が潤み、そしてぼやけた視界に大きな掌が映った。
骨張った細長い指がオレの遊んでいた台とドル箱に玉を流し込んでいた。
クラッシャーハットにサングラスをかけた大柄の男だった。
自分の事で必死で隣の人になんて気付かなかった。いつからそこで打っていたのだろう。そんなことをぼんやり考えながら赤くなりかけの目を擦った。帽子と黒いパーカーの中に隠れている髪は銀色だった。微笑んでいた。
お礼を言わなくちゃと我に返る頃には男はもう玉運びの店員と共に島からいなくなっていた。
彼が投じた玉のおかげで再び回転を始めた遊技台は特大のあたりを引いたようで一度当たった上に時短が始まる。
慌ててずらさないようにしなきゃと大きく息を吸い込んでレバーを握っていると手に汗をかいてきた。
肩を叩かれる。さっきの男だった。
呆気にとられて口が半開きにこそなったものの今度こそお礼をいわなくちゃと立ち上がろうとして、制される。
握っていたレバーの隙間に1ギルコインを2枚挟み込み、また微笑んだかと思うとチョコレート菓子をクラウドの膝に乗せて颯爽と島を通り過ぎ店を去っていってしまった。わざわざオレのために余り玉をお菓子に換えたのかなあと考えたが、自意識過剰かともクラウドは思った。
結局、何も言えないままで、投資した1、5倍のギルを取り戻した。
それ以降ときどき男のことを考えたりするのだけれど、数年が過ぎて悠然と遊技店に通える歳になっても、彼との再会は叶わなかった。



なんでこんな時に思い出すんだ?
眉間に刻まれた皺をより深くするとクラウドは柄を握りこみ目の前の男を睨んだ。