『おかけになった電話は電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため、かかりません』

セフィロスとエアリスは同時に溜息を吐いた。
といっても二人の距離は軽く数メートル離れている。
「つながらない ね。」
「おそらく暫くは。どこもこちらと変わらない状況だからな。」
エアリスの睫が伏せる。

内部が手薄になっているところを一斉に反神羅組織が攻めてきた。しかも軍や本社、施設などを狙うならまだしも、ミッドガル全体を狙った無差別テロである。スラムの教会周辺はひどい有様で、見せしめとして手始めにプレート下が襲われたらしかった。セフィロスがエアリスが今こうして共にいるのは偶然ではなく、セフィロスが自ら赴いたからに他ならない。本来ならばタークスが特殊警護をしている重要人であるから彼女の身の心配はなかったのだが、次々にスラム襲撃の情報が流れ込んでくる中で、セフィロスは嬉しそうに彼女の話をするザックスのことを思い出してしまったのだ。建物は半壊してしまっていたが、幸いエアリス自身は無事で、教会の椅子の陰に蹲っていた。彼女の顔は知らなかったが髪を飾るリボン、そして何より駆けつけた彼に対して「ザックス!」と声を上げ立ち上がってこちらを見つめてきたからすぐに彼女だとわかった。携帯を握り締めていたから、セフィロスが来るずっと前からザックスに連絡を取ろう、取ろうとしていたのだろうということが窺えた。

少し離れた場所で端末を握り締めるエアリスの身体は震えていて、そして時折鼻を啜っていた。
銃声や爆音の中、女一人でいたのだ、怖ろしかったに違いない。何か拭うものを差し出したかったが、生憎ハンカチもなにもセフィロスは持ち合わせていなかった。気が付けば空気が冷たい。自分が着ているコートでもないよりはマシだろうか、と考えていると、まるで思考が読んでいるかのように、エアリスは徐に顔を左右に振る。
「いらない。」
セフィロスを、というよりも神羅を好いてはいないらしい彼女の態度は頑なで、そしてザックスから連絡が来るのを待っていた。その立ち姿があまりに健気だったから、セフィロスは彼女に近づいて着ていたコートを有無を言わせず頭上から被せた。
俺もこの女のように一人でも信じられる存在があったなら。
コートの隙間から少し怯えたような瞳が覗き、けれども、柔らかい声がセフィロスの耳に届いた。

「ありがとう。」