テロの実行犯である男の左手をもぎ、片手で頚動脈を緩やかに締め付けて、「吐け。」と囁きかける。
仕事の内容によっては暗殺も請け負うこともあるが素手でそれをしたことがない青年にとって目の前の光景は戦慄するに十分なものだった。
科学部門総括がセフィロスの監視・調査を言いつけてきたのは一月前だ。俺はしがないサラリーマンだから例えいけ好かないマッドサイエンティストだろうが上の命令にゃ逆らえない。調査対象である彼には当初から監視・報告をする旨を伝えたが、一端の社員なんかよりもずっと事を知っているのだろう、見下すような眼差しを俺に向けただけだった。尤も彼が蔑んでいたのは俺ではなく依頼主なんだろうけれども。
空気が漏れるような情けない音を喉奥から押し出しながら、男はどんどん顔を赤黒く変色させていく。
口の端から唾液が泡になり噴き出だした。
「おいおい、死ぬぞ、と。」
見ていられなくて口を挟んだが、元よりそうするつもりはなかったらしい。
既に男の首からは黒い皮手袋は離れていた。
この人は可哀相だと思った。ただなんとなく、そう思った。